第1回 遊びの写真で、“瞬間”と勝負
連載:『宿題を忘れた日』
文・写真:河合妙子(トレド・スペイン)
(↓クリックで大きく表示します)
写真を仕事にして以来、自分の写真に満足することがない。「クライアントさん、気に入ってくださるかしら?」と心配になるのだ。コンピュータの画面で何回も見直しても、「どうかうまく行きますように」と両手を合わせてお祈りをしてからでないと、送信ボタンをクリックできない。写真の仕事がこれほど緊張感を伴うとは、携わるまで知らなかった。
ところが仕事とは一切関係ない情景に感動して無我夢中でシャッターを押し、気に入った写真が撮れると、我を忘れてうっとりしてしまう。心が自然にはしゃいでしまう。「おめでたいねぇ」と呆れられても、「バカじゃないの」と笑われても、かまわない。素直に楽しいと喜べる幸せを放棄してどうする?
2005年秋、フランスからのニュース映像がパリ郊外の移民地区で起きた暴動を伝えていた頃、私はパリ中心部の移民街にいた。郊外で暴動を撮って日本のメディアに送ろうとも考えたが、どうしても気が向かなかった。スクープを命じられていたわけではなかったからだ。それよりも、そのときパリに住む移民が何を考えどんな生活をしているかに関心があった。暴動の一方で、アフリカ移民で賑わう市場を喫茶店のガラス越しに眺めながら、大切な事を発見した気持ちになっていた。
そのときだ。道を渡る二人の女性を目が捉えた。腕が咄嗟に反応し、テーブルの上のカメラを掴むと夢中でシャッターを押した。露出は勘頼み。わたしは宿題も忘れて遊びほうけた頃に戻ったように、目の前のことだけを真剣に追いかけた。
そういうときの緊張感は何かに似ている。そうだ、勝負だ。「この瞬間を勝ち取りたい」という強欲だ。だから、気に入った瞬間を自分のものにできると嬉しいし、失敗したときの悔しさは半端ではない。
これからは仕事の写真にも、人に気に入られる写真を撮ろうとするだけでなく、勝負を持ち込んでみよう。勝った写真なら、堂々と送信できるようになるかもしれない。
地球丸フォトエッセイ「宿題を忘れた日」では、これから 1年間、宿題を忘れて遊びほうけた頃の童心に戻って撮影した写真とエッセイを掲載していく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。
≪河合妙子(かわいたえこ)/プロフィール≫
フォトグラファー&フリーランス・ジャーナリスト。現在スペイン在住。英・中・仏・西語を使い、取材・撮影・翻訳をする。「美しい部屋」(主婦と生活社)連載「スペインの雑貨的暮らしとインテリア」のほか、雑誌、ムック多数。7月発売『世界のフローリスト巡り』(エクスナレッジ)では、スペインのお花屋さんを紹介。「エコマム」(日経BP)のスペシャル・レポートでは、「カリテ・バターの秘密に迫る」を担当した。
文・写真:河合妙子(トレド・スペイン)
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写真を仕事にして以来、自分の写真に満足することがない。「クライアントさん、気に入ってくださるかしら?」と心配になるのだ。コンピュータの画面で何回も見直しても、「どうかうまく行きますように」と両手を合わせてお祈りをしてからでないと、送信ボタンをクリックできない。写真の仕事がこれほど緊張感を伴うとは、携わるまで知らなかった。
ところが仕事とは一切関係ない情景に感動して無我夢中でシャッターを押し、気に入った写真が撮れると、我を忘れてうっとりしてしまう。心が自然にはしゃいでしまう。「おめでたいねぇ」と呆れられても、「バカじゃないの」と笑われても、かまわない。素直に楽しいと喜べる幸せを放棄してどうする?
2005年秋、フランスからのニュース映像がパリ郊外の移民地区で起きた暴動を伝えていた頃、私はパリ中心部の移民街にいた。郊外で暴動を撮って日本のメディアに送ろうとも考えたが、どうしても気が向かなかった。スクープを命じられていたわけではなかったからだ。それよりも、そのときパリに住む移民が何を考えどんな生活をしているかに関心があった。暴動の一方で、アフリカ移民で賑わう市場を喫茶店のガラス越しに眺めながら、大切な事を発見した気持ちになっていた。
そのときだ。道を渡る二人の女性を目が捉えた。腕が咄嗟に反応し、テーブルの上のカメラを掴むと夢中でシャッターを押した。露出は勘頼み。わたしは宿題も忘れて遊びほうけた頃に戻ったように、目の前のことだけを真剣に追いかけた。
そういうときの緊張感は何かに似ている。そうだ、勝負だ。「この瞬間を勝ち取りたい」という強欲だ。だから、気に入った瞬間を自分のものにできると嬉しいし、失敗したときの悔しさは半端ではない。
これからは仕事の写真にも、人に気に入られる写真を撮ろうとするだけでなく、勝負を持ち込んでみよう。勝った写真なら、堂々と送信できるようになるかもしれない。
地球丸フォトエッセイ「宿題を忘れた日」では、これから 1年間、宿題を忘れて遊びほうけた頃の童心に戻って撮影した写真とエッセイを掲載していく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。
≪河合妙子(かわいたえこ)/プロフィール≫
フォトグラファー&フリーランス・ジャーナリスト。現在スペイン在住。英・中・仏・西語を使い、取材・撮影・翻訳をする。「美しい部屋」(主婦と生活社)連載「スペインの雑貨的暮らしとインテリア」のほか、雑誌、ムック多数。7月発売『世界のフローリスト巡り』(エクスナレッジ)では、スペインのお花屋さんを紹介。「エコマム」(日経BP)のスペシャル・レポートでは、「カリテ・バターの秘密に迫る」を担当した。