第1回 リトルヴェニスでノスタルジック気分
連載『香港の離島から』
文・写真:みゆきりん(香港・ランタオ島)
香港にしてはスピードを出さないバスが、ゴトゴトとかったるそうに山を超える。6月の大雨で山のあちこちは土砂崩れ。日焼けしすぎた肌のように痛々しくむけている。刑務所を通過し、“リトルヴェニス”のニックネームで知られている終点の大澳(タイオー)に到着する。
緑と黒の色をしたどこかの国旗を思い出させる漁船と、それらの主らしき男たちがヒマそうにしている。まさかここが以前は栄えた漁港などとは思えない、静かな島の時間が流れている。ここの住人はほとんど蛋民(たんみん)と呼ばれる人たちであり、遠い昔はじめて香港に移り住んだユエ族の子孫である。住居は運河沿いにある木やトタンでできた水上家屋。ヴィクトリア湾沿いに窮屈そうに建ち並ぶ高層ビルのように寄り添って建っている。
それにしてもずいぶんと乾物臭い香港のヴェニス。それもそのはず、これで商売になるのかと心配したくなるくらい同じような乾物屋が並んでいる。並べ方も“コピペ”したよう。エビやイカ、貝柱などはいわゆる乾物の定番である。ナマコも中華料理に登場するキャストだからあっても不思議ではないが、たつのおとしごとなると飾り物以外に使用法がわからなくなってくる。タイオーオリジナルのエビペーストもその横で堂々と存在をアピールしている。
そんな中、記憶の底にある、なつかしいものを発見。幼少の頃過ごした山口県の下関市ではどこの家庭でも、電気をつける時にひっぱる紐についていた。こんなところでまさかの30年ぶりのご対面。そのお相手はふぐのちょうちん。そういえばここのにおいも門司港のそれに似ている。おばあさんがよくサザエの入った大きな風呂敷を背負って売りに来ていたっけ。もうずいぶんと前のことになるが、体が弱く、恥ずかしがり屋だった自分がいた下関を訪れてみたくなった。
≪みゆきりん/プロフィール≫
香港在住16年。以前は香港島に住みシングルライフを謳歌していたが、結婚を機に離島に移り住む。香港の緑の美しさに目覚め、マウンテンレースやアドベンチャーレースに参加している。育児とトレーニングのかたわらフリーランスでライター、通訳・翻訳をしている。
文・写真:みゆきりん(香港・ランタオ島)
香港にしてはスピードを出さないバスが、ゴトゴトとかったるそうに山を超える。6月の大雨で山のあちこちは土砂崩れ。日焼けしすぎた肌のように痛々しくむけている。刑務所を通過し、“リトルヴェニス”のニックネームで知られている終点の大澳(タイオー)に到着する。
緑と黒の色をしたどこかの国旗を思い出させる漁船と、それらの主らしき男たちがヒマそうにしている。まさかここが以前は栄えた漁港などとは思えない、静かな島の時間が流れている。ここの住人はほとんど蛋民(たんみん)と呼ばれる人たちであり、遠い昔はじめて香港に移り住んだユエ族の子孫である。住居は運河沿いにある木やトタンでできた水上家屋。ヴィクトリア湾沿いに窮屈そうに建ち並ぶ高層ビルのように寄り添って建っている。
それにしてもずいぶんと乾物臭い香港のヴェニス。それもそのはず、これで商売になるのかと心配したくなるくらい同じような乾物屋が並んでいる。並べ方も“コピペ”したよう。エビやイカ、貝柱などはいわゆる乾物の定番である。ナマコも中華料理に登場するキャストだからあっても不思議ではないが、たつのおとしごとなると飾り物以外に使用法がわからなくなってくる。タイオーオリジナルのエビペーストもその横で堂々と存在をアピールしている。
そんな中、記憶の底にある、なつかしいものを発見。幼少の頃過ごした山口県の下関市ではどこの家庭でも、電気をつける時にひっぱる紐についていた。こんなところでまさかの30年ぶりのご対面。そのお相手はふぐのちょうちん。そういえばここのにおいも門司港のそれに似ている。おばあさんがよくサザエの入った大きな風呂敷を背負って売りに来ていたっけ。もうずいぶんと前のことになるが、体が弱く、恥ずかしがり屋だった自分がいた下関を訪れてみたくなった。
≪みゆきりん/プロフィール≫
香港在住16年。以前は香港島に住みシングルライフを謳歌していたが、結婚を機に離島に移り住む。香港の緑の美しさに目覚め、マウンテンレースやアドベンチャーレースに参加している。育児とトレーニングのかたわらフリーランスでライター、通訳・翻訳をしている。