地球丸フォトエッセイ

「地球はとっても丸い」プロジェクトのメンバーがお届けする、世界各地からのフォトエッセイです。
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第7回:Pate de Coings パート・ドゥ・コワン −フランス− 
連載『旅する胃袋』
文・写真:長晃枝(日本・東京)
Pate de Coings パート・ドゥ・コワン
 フランスを訪れるのは12年ぶり。日本とも、アジアともまったく異なる空気に、香りに、色合いに、少々浮かれ気味の私。高級なフランス料理がおいしいのは、ある意味では当然のことだが、ごく日常的に食べるものがどれもこれも本当においしいのは、やはりこの国の人々の「おいしいものに対する思い」が強いからだろうとつくづく感じる。そして、その代表格がパンとチーズである。

 ちょっと歩けば、かならずboulangerie(ブーランジェリー=パン屋)とfromagerieチーズ屋)に行き当たる。もちろん、店ごとに自慢の品揃えで、お客を待つ。そのウインドーを、ウキウキワクワクしながら子どものようにのぞく自分が、ちょっと滑稽だな……と思いながらも、この上なくシアワセでもある。特に、ガラスケースの中でさまざまな色と香りに輝く、日本ではなかなかお目にかかれないか、あっても非常に高価なチーズの数々は、私にとって宝石より魅力的だ。

 しかし、今回紹介したいのは主役のチーズではなく、その主役をグッと引き立てる名脇役のほうである。お皿の上の、向かって左側に存在感たっぷりに鎮座まします羊羹……ではなく、パート・ドゥ・コワン。実際、見た目だけでなく口にしても、以前に食べたことのある「柿の羊羹」に極めて近い。

 それもそのはずで、これは果物に砂糖を加えて煮詰めて固めたもの。pate(パート、ここでは表記できないが、正しくはaの上に山型のアクセント記号)は生地、またはペースト状のもののことで、pasta(パスタ)の語源といわれる。Coings(コワン)は、マルメロと呼ばれるカリンに近い種類の果物。少しザラリとした食感とほのかな香りは、たしかにカリンのよう。ジャムなどにとろみをつけるのに使われる食物繊維であるペクチンを多く含むマルメロは、しっかり煮詰めて冷ませば自然と固まるのである。

 え、甘いの? と思われる方もおられるかもしれないが、チーズはフルコースのデザートに出てくるくらいで、また、甘いものとしょっぱいものの組み合わせは、これまた絶妙。このお皿の上のチーズも、一番奥にある丸いチーズには干したぶどうとパイナップルがまぶしてあり、手前のチーズの上に乗っているのは、しいたけの佃煮ではなく甘く煮たイチジク。このほか、塩気の強いブルーチーズには蜂蜜を合わせたりもする。

 これまで、パーティーでplateau(プラトー=盆)と呼ばれるチーズの盛り合わせにちょこっとだけ乗っていたこのパート・ドゥ・コワンを、その正体が何なのかよくわからないままに食べたことはあったが、これだけしっかり食べたのは初めて。そして、その魅力にハマってしまった。この自然な深みのある甘みと、チーズの塩気が相まって、おいしいチーズがさらにおいしくなるのだから。もちろん、さまざまなチーズとともに、自分用のおみやげに買って帰ったのはいうまでもない。


≪長晃枝(ちょうあきえ)/プロフィール≫
東京在住。アジアを中心に、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。この夏は、念願かなってアジア脱出! 久々に訪れたロンドン、そしてパリとパリ郊外のノルマンディーで、またまたおいしいものを堪能。

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