地球丸フォトエッセイ

「地球はとっても丸い」プロジェクトのメンバーがお届けする、世界各地からのフォトエッセイです。
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第7回 故郷と元彼
連載:『宿題をわすれた日』
文・写真:河合妙子(トレド・スペイン)
故郷と元彼
 「あなたの故郷は日本のどのあたりなの?」と外国の人々によく聞かれる。日本の大都市はすでに有名だが、「小田原」と言ってもわからない人が大部分なので「東京から南に80キロほど行ったところで、電車だと1時間30分、新幹線だと30分くらい」と答え、さらに「海があり、山があり、温泉があって、お刺身がおいしいの!」と付け足すことにしている。相手が「まあすてき!」と言うのを聞くのが嬉しいからだ。

 私自身、この故郷が好きでたまらない。実家があるのは村と呼ぶほうが正しいほど小さい。マンションが増えたとはいえ広い田圃がまだ残り、富士山、箱根山、丹沢連峰が見渡せる。近所のすべての家にも辻々にも井戸があり、水が滾々と湧き出ている。私の実家では飲み水も、風呂もトイレの水も井戸水だ。

 パリに住んでいた数年前、知り合って間もないカナダ人に恒例のお国自慢をしたら、「じゃあなぜ故郷を飛びだして、こんなところに住んでいるの?」と言われ、答えに窮してしまった。私の場合、“来た”というより、探し物をしているうちに知らずに外国に迷い込んでいたという言い方が近い。外国に来た感覚は希薄だ。だがその時ばかりは海も山もない街にいることが淋しかった。

 OL時代、私は西荻窪に住み、吉祥寺で陶芸を楽しんでいたが、面白いことに当時の陶芸仲間のうち3人が私の“村”を気に入り、移り住んで来た。西日が当たると植物の影が不思議な姿で網戸に浮かび上がる台所のある家に住んでいるのは、やはり東京から来た根付師だ。陶芸家の友人たちとこの根付師は、余暇に始めた稲作で馬が合って友達になったと言い、私も仲良くなった。私のいない間に我が故郷に根を張り始めた友人たちは、やがて私よりも土地に詳しくなるだろう。私が密かに楽しみにしていた場所も、もう彼らには知れ渡っている。故郷に帰って彼らに会うとき、私の元彼と今の彼女の間に割り入るような心地がしないと言えば嘘になる。

≪河合妙子(かわいたえこ)/プロフィール≫
スペインを拠点にヨーロッパ、アフリカ各地を取材するフリージャーナリスト&フォトグラファー。「ヤキトリ」「サシミ」「スシ」「マンガ」はヨーロッパの共通語になっているが、自分からはこの4つになかなか手を出さない。食事はもっぱらワイン、チーズ、生ハムを好んでいるが、さて「マンガ」に当たるものはわたしにとって何だろう? 日本では見る機会がほとんどないドキュメンタリーか映画かな? これでは故郷がますます遠くなる?
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